京都・東山の町家改修を依頼されたとき、施主から最初に言われたのは「壊したくない」という言葉でした。築120年の建物には、現代の住宅にはない素材の厚みと光の質があります。それを保ちながら、現代の生活に対応させることが課題でした。

既存素材の状態を正確に把握する ¶
改修前に、既存の土壁・木部・格子窓の状態を詳細に記録しました。土壁は部分的に剥落していましたが、下地の竹小舞は健全な状態でした。木部は表面の汚れを除去すると、良質な木目が現れました。既存素材を活かすかどうかの判断は、見た目だけでなく、構造的な健全性と今後のメンテナンス性を基準にしました。
西陣織の壁装材を選ぶ過程 ¶
壁装材として西陣織を採用することは、設計初期から決めていました。問題は色の選定です。施主と3回のサンプル確認を経て、深い藍色に決定しました。サンプルは必ず、格子窓からの自然光の下と、夜間の照明の下の両方で確認しました。昼と夜で色の見え方が大きく異なる素材だったため、この確認は特に重要でした。
格子窓の光を設計する ¶
格子窓は町家の最も重要な要素の一つです。夏至と冬至の太陽高度を計算し、夏は直射日光を遮りながら拡散光を取り込み、冬は低い角度の日光が室内深くまで届くよう、格子の間隔と角度を調整しました。この設計により、昼間は人工照明をほとんど使わずに十分な明るさが得られるようになりました。
現代設備との両立 ¶
空調・給排水・電気設備を既存の構造を傷めずに組み込むことが、技術的な課題でした。空調は床下に配管を通し、吹き出し口を床面に設けることで、壁面への露出を最小化しました。電気配線は既存の柱の溝を利用して隠蔽し、コンセントの位置は家具の配置計画と連動して決定しました。
メンテナンス計画を施主に伝える ¶
土壁は湿度の変化で微細なひび割れが生じることがあります。これは素材の特性であり、構造的な問題ではありません。施主には、年に1回の状態確認と、必要に応じた部分補修の方法を書面でお渡ししました。西陣織の壁装材は、直射日光による退色を避けるため、格子窓のカーテンの使い方も含めてご説明しました。
町家の改修は、建物との対話です。既存の素材が持つ時間の積み重ねを尊重しながら、現代の生活に合わせる方法を一緒に考えましょう。